インターネットの未来 〜広告ブロックについて思うところ〜

インターネット広告メディアは確実に崩壊する

広告ブロックが当たり前のような時代になりつつある。これはもう避けられないのではないだろうか。だから稼げる今のうちに広告をたくさん表示しようと考えるブロガーやコンテンツファームが出てきてもおかしくはない。ページ内の広告数が増えれば収益率は上がるが、ユーザの広告に対する不満はどんどん高まっていく。そうなれば今まで広告ブロック機能なんて知らなかった層にまで広告ブロックが浸透するきっかけができてしまう。

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きっとそんな悪循環によってネット広告メディアは破綻していくのだろう。Googleや広告業界が何かしらの行動(ページ内広告数の制限や埋込型広告配信機構、広告ブロック規制や訴訟等いくらでも考えられる)を起こさない限り、この業界に未来はない。

もう広告で稼ぐ時代は終わった

AppleがWebブラウザに広告ブロック機構を搭載すると聞いて、ブログを投稿して収入を得る時代はもう終わりだと感じた。 小一時間掛けて記事を書いても、広告をクリックしてもらえる機会がないのなら書いていても意味が無いのだから。少なくともブログを金儲けのための道具としてしか見ていない人達は皆そう思っているかもしれない。

なおコンテンツブロッカーは「iOS 9、OSX 10.11」以降のOSに取り込まれる予定

広告モデルによって生まれた粗悪なメディア

そもそもインターネットが出始めた時代には今みたいな巨大ネット広告メディアなんてものはなかったし、それでもネット上で質の高い情報を得ることはできた。むしろ今の時代のほうが情報の質は低く、本当に必要な有益で価値のある情報は見つけにくくなっている。まとめサイトやQ&Aサイト、コンテンツファーム、NAVERまとめ、などがその元凶で、これらはユーザを混乱させ、知識人を淘汰し、信憑性や価値の低い情報を垂れ流す粗悪なメディアとも揶揄できる。

インターネット広告メディアの構造的欠陥

人は金に弱い

なぜ価値の低い情報が垂れ流されているのか。それは広告収入というインセンティブによるところが大きい。この世界には既に、ネット上に情報や知識を公開することによって対価が得られる仕組みが確立されてしまっている。見返りが得られれば人は貪欲になり競争原理も働くようになる。若干不確かな情報であっても効率性と目先の利益のために不完全で未整備な情報を垂れ流し続ける。

SEOの欠陥

そしてもう一つ、SEOの存在も忘れてはならない。SEOは自身のサイトをより多くの人達に見てもらうための技術や手法の総称である。コンピュータよりも人間のほうが一枚上手な現代では、SEOを熟知することによって価値の低い情報を、あたかも価値の高い情報のように見せることができてしまう。それによって本当に有益な情報が量産型の低価値な情報に埋もれてしまっている。

広告モデルの登場によって、知としてのインターネットは崩壊してしまった。今やインターネットは大衆向けの胡散臭いメディアへと成り下がっている。

人々は気づく

今、インターネット社会におけるパワーバランスはネット広告業界トップのGoogleに集中している。AppleがSafariブラウザに取り入れようとしている広告ブロック機構が、単にユーザの利便性を追求するためのものであったとしても、今回の決断はこの世界のパワーバランスを大きく崩すきっかけとなるはずだ。なぜなら人々は気づいてしまうからだ。自分たちがいかに広告漬けにされていたか、そして価値の低い情報に振り回されていたかということに。またブロガーやコンテンツファームも気づき始める。自分たちのビジネスがいかに脆弱な基盤の上に成り立っていたかを。

インターネットはより閉じた世界になってゆく

インターネットと言うと昔は、「世界図書館、知の宝庫、人類の叡智、アカシックレコード」なんて比喩・賞賛されていた。しかし今のインターネットはそれらに遠く及ばず、まるでゴシップ雑誌のような胡乱臭い物へと成り下がっている。今回のAppleの決断は業界に強烈なインパクトを与えたものの、インターネットの方向性を90年代の理想へと軌道修正させるには至らない。インターネットが「高貴な者の嗜み」だった時代はもう遥か遠い彼方にある。

ではインターネットは今後どうなってゆくのか。広告モデルの破綻によって、インターネットは今よりもクローズドなものになってゆく。Googleやアーリーアダプター達が独占してきた利益はこれから生まれるネット世界の個別のコミューンへと再分配されてゆく。これから、インターネットという巨大な広場には、細分化された個別の広場がいくつも誕生することになる。人々の生活の中心は常にそれら個別の広場の内の一つに収まるようになるだろう。

既存サービスの未来

「ネット上のサービスは無料が当たり前」という常識はまず崩れる。いわゆる有料会員制度が再評価されるようになり、それらの恩恵を享受出来ない者にとってのネットに対する利便性は緩やかに低下してゆく。

現実世界のサービスを例に挙げるならば、「ニコニコ動画」などはプレミアム会員確保のために一般ユーザーへの縛りをより強め、会員特典を充実させるようになる。「YouTube」は現在の課金制オプションに加えて、定額制・従量制オプションを導入するようになる。「はてなブログ」やその他のブログサービスは有料会員限定非公開記事のような仕組みを作り始める。情報系サイトは有料記事の混在や有料バックナンバー方式に切り替わる。

00年代にはよくあったメルマガ的なビジネスモデルがここでまた再加熱するわけだ。

これからのサービスの主流

これから生まれる世の中のサービスは全て購買型・課金制になるのかというと実はそうでもなく、購買型・課金制のサービスは当然取り入れつつ、促しつつ、別の収益モデルと共存させる方法が主流となる。これからのサービス事業者は一つのモデルに依存せずに、複数のサービスを連携させながらビジネスを築いてゆかなければならない。

そのためにはまず、コントロール可能な大量のユーザーが必要で、それらユーザの囲い込みが可能なプラットフォームの形成が重要となる。Appleは次期リリース予定の「News」を皮切りにおそらく同等の収益モデルを築き上げていくはずだ。Safariの広告非表示機構はその伏線であったと言える日が来るかもしれない。

無料通話アプリで有名な「Line」やYahooアカウントで有名な「Yahoo」、ニコニコ動画サービスで有名な「ドワンゴ」は既にそのような包括的な収益モデルの構築に着手している数少ない企業と言える。

時代は大規模プラットフォームとC to Cへ

Lineは「Lineスタンプ」で新規市場の構築に成功し、「Lineモール」で今までC to Cに関心のなかった層の掘り起こしに成功している。Yahooは「Yahooニュース」にライター制度を導入し幅広い記事や評論を備えることに成功、それにより有料記事購読へのインセンティブが高まった。

いずれの成功にはユーザ数が多いプラットフォームである点が共通している。ユーザが気軽に送り手になれるシステムが備わっている点も特徴である。もはやインターネット上のサービスは企業側が一方的に提供するものではなく、ユーザとユーザが共に作り上げてゆくものになっている。

5年以上前から同じことは言われてきたが、今後は更にその重要度が増してゆく。この五年間の主役は主にアーリーアダプター達であったが、これからはより大衆を巻き込んだ形態へと変化(劣化)してゆく。

特別ニッチな業界でもない限り、今後はプラットフォームの規模が何よりも重要になってゆく。受け手(ユーザ)が多ければ優秀な送り手(クリエイタ)が集まってくるため、コミュニティは更に活発になる。受け手と送り手が安定的に確保できるようになれば、有料サービスを骨格とする収益モデルの構築も可能になる。

いかに優秀なクリエイターを取り込むか

今後のサービスでは、とにかく優秀な送り手(クリエイタ、ライタ)を取り込むための魅力的なプラットフォームの構築が重要になってゆく。その際にはなによりも、送り手を満足させるための「プラットフォームの規模」が重要なポイントとなる。サービス事業者はとにかく大量のユーザを安定的に確保する必要があるため、無料サービスという文化はこの先も無くなることはない。

ネット社会の構造はより現実社会のそれに近くなる

これからはLineやYahooそれに続く巨大プラットフォームが利益を独占するようになる。現在の個人ブロガーやアフィリエイター達はそれらの大元にコンテンツを提供し、多額のマージンを搾取される形で生き残っていかなければならない(自サイトだけでは広告ブロックの影響を受けるため安定的な収益が得られないためである。また大衆も個別のプラットフォームへと流れていくため、自サイトへの直接訪問自体が相対的に減ってゆく)

求められるコンテンツも今日のマスコミ業界のような低次元で胡散臭いものばかりになっていくだろう。今日のネット社会におけるアーリーアダプター・アーリーマジョリティが得てきた対価や機会のほとんどは、今後レイトマジョリティのものになる。この変化は「持たざる者」に力を与える一方で、「持てる者」の影響力を弱めることにつながる。Googleの敗北は現行の個人ブロガーやアフィリエイター、もといアーリーアダプター達を苦しめることになるだろう。

今後起こりうるネット社会の変化

ビジネス

  • 情報系サイトの記事が最新無料、バックナンバー有料の方式に切り替わる(逆もまた然り)
  • プラットフォーム同士の合併・連携が行われるようになる

フリーランス

  • 既存ブロガーは大手プラットフォームへの依存を強いられる
  • フリーランス(主にブロガやアフィリエイタ)の収入・人口が劇的に減少する。
  • またその役割のほとんどはレイトマジョリティに奪われる。

世の中

  • 専用アプリの開発が今以上に活発化する(ただし短期的なバブルとして)
  • ブラウザのトップ画面に「Google検索」を使う層が減る
  • そもそもブラウザを使わない世代が増える(ブラウザは玄人向けのものになる)

プラットフォーム

  • ドワンゴは娯楽産業を中心とするプラットフォームとして名をあげる
  • Yahooはニュースや評論、教養を中心とするプラットフォームの定番となる
  • 「はてな」は自己啓発系プラットフォームの定番となる。
  • また上記Yahooプラットフォームとのライバル関係になる
  • Lineは生活や芸能、メディアを中心とするプラットフォームとして幅を利かせる
  • Lineは広告メディアになろうとする(現マスコミ+電通のそれに近い)
  • キュレーションアプリの数は今よりも少なくなる(大手が市場を独占するようになるため)

番外編

インターネット上のモラルがより問われる時代に

インターネットが個別のコミューンとして細分化されてゆけば、おそらく他人のコンテンツを焼き増しする人間が続々と現れてくる。他のサイトで出回ったネタを別のサイトにコピペする輩が現れるわけだ。「NAVERまとめ」や「Qiita」などの焼き回し的コンテンツ文化を見ていると、そんな未来も嘘ではないと思えてくる。若い子達が小金目当てに他人の記事を自身のアカウントで公開したり、本に書かれていることを若干の改変で公開したり、無断転載したり、そんなモラルを疑ってしまうようなことが、当たり前のように行われる世界になってしまうのかもしれない。

そのとき私たちは、インターネットへの窓がまだ「Google検索」だった時代を思い出し、失ったものの大きさに涙するのだろう。

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