個人的には、新しい言語を学ぶコストよりも、もともと使っていた言語の肥大化した言語仕様を学び直すコストのほうが明らかに小さくなると感じています。この考えは新しい言語をScalaやKotlin、SwiftやCoffeeScript、肥大化した言語仕様をJava 8やJavaScript(ECMAScript 6)に置き換えてみるとなんとなく理解してもらえるのではないでしょうか。
言語開発者の自己満足なのか
そのような発想に行き着くと、今日の新言語ブームや新言語開発ブームというのは使い手の意向を無視した行き過ぎたブームなのではないかと思えてきます。最近の新言語フィーバーを見ていると、作り手の思惑に振り回されている気もして如何ともし難いのです。
古いものを捨て、新しいものを取り入れる
とは言っても、やはり新しい物は魅力的です。この業界では古いものを捨て、新しいものを取り入れるという考え方が当たり前のようにとられてきましたから、古いものに執着することはある意味、この業界の流れに逆行した愚かな行為と言えます。よって今日の新言語ブームは必然性の元で生まれたごく自然な現象だという見方もできます。
既存技術者は既存言語の進化を求めている
しかし職業プログラマからすればこの流れはいい迷惑で、出来れば使い慣れた言語を安定的に使い続けたいわけです。今まで必死に学んできた言語ですから、それを手放してまた新しい言語を学び直すというのは非常に手間や労力、リスクが高いわけです。
最近は新しい言語を強いられるくらいなら、今使ってる言語の機能が増えても構わないと考える技術者も増えてきました。新言語を学ぶコストよりも肥大化した既存言語の仕様を学ぶほうが、リスクが少ないだろうと考えているわけです。
そのような保守的な層を考えると、今日の新言語ブームは既存技術者達の意向に沿わない不自然な現象と見ることもできるかもしれません。
新言語ブームは次世代を取り込むための政治的な流れ
今日の新言語ブームは既存の技術者を意識したものではなく、これからこの業界を担う若い世代を取り込むための戦略的な流れだという見方もできます。
実際に、新言語(TypeScript, Go, Dart, Kotlin, Rust, Swift, Hack, .etc)のバックには巨大企業(Microsoft, Google, Apple, IBM, Facebook)が絡んでいることが多いです。というよりも企業主導で作られた言語がほとんどです。
特定プログラミング言語への依存には、技術者を特定プラットフォームに依存させる効果があります(C#と.NET、SwiftとiOS、GoとGoogle、TypeScriptとMicrosoft、C言語と組み込み業界、JavaとSI業界、等々)。そのため企業は新言語の開発とプラットフォームとの連携に躍起になっているのでしょう。
最近ではこのような戦略的な新言語開発の流れに加えて、テキストエディタでユーザを囲い込もうとする流れも見られます(MicrosoftのVisual Studio CodeやGithubのAtom等)。
今日の新言語フィーバーや高機能テキストエディタ・フィーバは企業競争がもたらした現象だとも言えるでしょう。
いかに多くのユーザを囲い込めるか
今後のビジネスではいかにユーザを自社のプラットフォームに囲い込めるかが重要になっていきます。そしてその手段は新言語開発から高機能テキストエディタ開発、SNSや質問サイト、萌えキャラ、企業アイドル等、幅広いものになっていくでしょう。Stack Overflow等の巨大プラットフォームが、GoogleやMicrosoft等の大手企業に買収されるような時代もやってくるかもしれません。
業界の転換期が来ている
この業界では今、企業間での猛烈な主導権争いが繰り広げられています。これはもはや政治の世界と見間違うほど激しいものです。
これからプログラミング言語を始める若い人たちは、様々な企業の思惑に惑わされないよう注意する必要があるかもしれません。
これから言語間、テキストエディタ間の競争はより一層激しさを増すことでしょう。絶対に流行ると思って飛びついたものが、意外なほどあっさりと消えてしまうような状況に出くわすこともあるでしょう。
我々受け手には今後、物事の本質を冷静に見極める目が求められていきます。言語その物の価値だけではなく、周りの環境や状況を慎重に見極め判断していく必要があります。