今まで経験した心霊体験|飛び降り自殺の女性

これは作り話などではなく、私が実際にこの身をもって体験した話である。

ただ事実だけを記したい。

心霊も宗教も幽霊も神も信じないこの私が経験した唯一不可思議な出来事である。

可能な限り特定可能な情報を明かしていきたい。警察の記録にも残っているはずなので、この事件に興味のある変わり者や、当時の関係者の助けになればと思う。また私の知り得ない事実や手掛かりを得る機会になればとも思う。情報提供を求む。


2001年9月○○日の出来事である。

正確な日時は覚えていない。

アメリカ同時多発テロの後日、911関連の特別番組(※1)が放送された日の深夜から未明にかけての出来事だ。

※1 地上波アナログ放送の6チャンネルか8チャンネルのどちらかだったように思う。やたらとCMの多い番組だった。8時あるいは9時からの2時間番組であったと記憶している。

その夜、私の夢の中で一人の女性が死んだ。

飛び降り自殺だった。

飛び降りの瞬間は見ていないが、何かが地面に叩きつけられるような音からして飛び降り自殺であると判断できる。

あの夜の特別番組で放送された飛び降り映像の音声とよく似ていたから、とても印象に残っている。目の前に落ちる雷のような、あるいは鉄板に何かを叩きつけるような、ハリのある独特の音だ。

夢の始まりはまさしくその衝撃音からだった。

そして女性が一人横たわってじっとこちらを見ている。

感情を感じさせない乾いた目で、ただじっとこちらを見ている。

それはまるで金縛りのようだった。

しかし不思議と恐怖は感じなかった。うつろな夢の中だからなのか、あるいは好奇心のほうが勝っていたのだろう。

私の意識は自宅の中にあり、そして私は窓ガラスの外で横たわるその女性を直視していた。

見ているというよりは見せられているような感覚だった。
金縛りとはおそらくこういうものなのだろう。

辺りは赤く焼けているかのような光景だった。
赤と黒のグロテスクな世界だ。

そして女性はその地獄のような赤い世界に溶け落ちていくように見えた。

ちょうど焚き火の炎のように、ちらちらと私の見るもの全てが赤く照らされていった。


夢はここで終わりだ。それ以上の記憶はない。

ここまでなら単なる悪夢として片付けられる話だ。

911・ワールドトレードセンターの飛び降り映像を見た際のショックがもたらした心理的な悪夢と取ることができるだろう。

だが不思議な出来事はこの後に起こる。


後日、私は友人の家で奇妙な噂を耳にする。

知人のM.Kが女性の死体を見たという話だった。

なんでもその女性は団地のN階から飛び降りたのだという。

たしかM.K(±8)は第一発見者だったと思う。彼が警察の事情聴取を受けていれば、このイニシャルが捜査報告書に記された本名と一致するはずだ。事件現場は「東京都 ××× ○ー○ー6」N階建ての団地の前だ。団地はUR都市機構または都営住宅公社のものだったと思う。発見は深夜から未明にかけての時間帯。ただ正確な日時は聞いていない。

あのとき私はこの噂を聞き、ひどく動揺したのを覚えている。

なにせあの夢と同じなのだ。

女性の転落死。深夜の発見。

全てが一致していた。

そしてなによりも。

その団地は私の家の目と鼻の先にあったのだ。


私はこの噂を聞いた時、とても恐怖していたのだと思う。

事件の内容を深く追求しようとはしなかったからだ。

夢のことを打ち明けようとも思ったが、その場を霊的な空気に変えるのが怖くてできなかった。夢のことを話してしまうことで、なにかに呪われてしまったり、取り返しのつかないことが起こってしまうような気がしてならなかった。ただその噂を聞き続けていることしかできなかった。だからその後も、私はあの夢のことを今まで誰にも話してこなかったのだ。

M.Kとは大の親友だったが、彼に直接話しを聞くこともなかった。

そもそも音信不通だった彼とは疎遠の関係で、ほとんど会っていなかったのだ。

彼が今どこで何をしているのかも分からない。


だからもう私はこの不可解な出来事の真相を知ることはできないのだ。

あの夢の正体も、あの噂の事件が本当にあったことなのかさえわからない。

ただ確かなのは、私の見た夢と噂の内容が奇妙に一致していること、そしてあの事件以降、転落事件が起こった団地のM階とN階の踊り場には転落防止用の鉄格子が取り付けられるようになったということだけである。


以上が私の知る事実の全てである。

読み返してみると、安っぽい心霊番組のストーリーや、ネット掲示板にありがちな創作実話みたいだが、この話は紛れもなく実際に起こったことであることを固く断言しておく。

私が見た夢も、死んだ女性の噂も、私が実際にこの目で見て、この耳で聞いた現実なのだ。

幽霊も神も信じない生真面目でつまらない人間である私が経験した唯一不可思議な出来事である。


しかしこうやって文章として記してみると、より一層この出来事の真相が気になってしまう。

思えば私は20年間、この体験を胸の内にしまい込んできたのだ。
それを今こうして具体的な意識をもって受け止めている。
しかしそれによって何かが得られたわけでもなく、ただモヤモヤとした引っ掛かりのようなものを感じるばかりだ。
余計に分からなくなってしまっただけだった。

とにかくこのモヤモヤとしたものの正体が気に掛かってしかたない。

私は実在を愛する者なのだ。この不要な観念は断ち切らなければならない。

おそらく何かしらのカラクリがあるのだろう。

きっと全ては現実的に説明できるはずなのだ。


おそらくこれは実に単純な話である。

前日に耳にした飛び降り映像の音声。
女性が転落した際の衝撃音。

事件現場にやってきたであろうパトカーや救急車の赤いライト。
部屋の中を照らす赤いライトの光。

そうやって偶然にも複数の事象が睡眠中の私の意識へと作用した。

夢の中の衝撃音と赤い世界はこれで完全に説明がつく。

きっとそういうことなのだろう。

あれは家の前で現実に起こっていたことが外部刺激として睡眠中の私の夢に作用したことの結果なのである。


ただ、なぜ女性なのだ。

夢の中で見た女性と、噂で聞いた女性、この両性が一致したのはただの偶然だろうか。


これはあまり深く考えるべきことではないのかもしれないが、

ひょっとすると、私は事件の現場をこの目で実際に見ていたのではないだろうか。

家の窓から直接、彼女の死体を見てしまったのではないか。

私はその衝撃的な光景とその記憶を自身の夢の中へ封じ込めてしまったのではないか。


しかし、そもそも何故、M.Kはあの時間帯にあの現場にいたのだろう。

もし彼が刑事上の発見者でなかったとすれば、彼はあそこで何をし、なぜ通報もせずにあの場を離れたのだ。

そして何のためにあの噂を流したのだ。

そもそもあの噂が示す「発見者」とは何なのだ。

あれは聞き間違えだったのではないか?

発見ではなく目撃?

彼はいったい何を目撃したというのだ。

広告